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東京高等裁判所 昭和49年(く)47号 決定 1974年4月10日

主文

原決定を取り消す。

本件保釈の請求を却下する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人の提出した「抗告及び裁判の執行停止申立書」と題する書面に記載されているとおりであるから、これを引用する。

そこで、関係記録を調査して検討すると、まず、被告人は、昭和四四年一二月一一日、その要旨が次のような被疑事件、すなわち、数名の者と共謀のうえ、同年一一月五日、(1)米海軍厚木基地の境界柵を切断した器物損壊の事実、(2)正当な理由がなく右基地内に侵入した日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法(以下、刑事特別法という)違反の事実、(3)右基地内でダイナマイト等を所持した火薬類取締法違反の事実、(4)治安を妨げ、右基地の施設を爆破する目的でダイナマイトを使用しようとして発覚した爆発物取締罰則違反の事実により勾留され、同年一二月二六日勾留のまま右(2)(4)の事実につき原裁判所に公訴の提起を受け(昭和四四年(わ)第一三六九号被告事件)、現在に至るまで勾留されていること、さらに、被告人は、昭和四六年三月三一日、その要旨が次のような被疑事実、すなわち、数名の者と共謀のうえ、昭和四四年一〇月二一日、(1)米空軍横田基地内に侵入した刑事特別法違反の事実(2)右基地内の飛行機を数人が共同して損壊した暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の事実により原裁判所に公訴の提訴を受け(昭和四六年(わ)第三九九号被告事件)、昭和四六年四月三日、右事件についても勾留されて現在に至っていること、そこで、被告人の弁護人有賀信勇他二名は、昭和四九年三月四日、原裁判所に対し、本件保釈の請求をしたところ、原裁判所は、同月二九日、本件保釈請求を相当と認めるとの理由を付して、被告人の保釈を許したものであることが明らかである。

一、理由不備の主張について。

所論は、原決定の右のような理由の判示は、刑事訴訟法第四四条第一項の要件を充たしていないから、原決定は違法である、というけれども、原決定が、その裁量により保釈をしたものであることは、その判文ならびに本件各被告事件の内容、公判審理の進行状況等に照らして明らかであるところ、同法により裁量保釈をする場合には、その理由につき、法律上は、原決定の程度に判示すれば足り、裁量により保釈を相当と認めた判断過程まで判示する必要はないと解すべきであるから、右所論は失当である。

二、本件保釈の相当性について。

所論は、本件は、刑事訴訟法第九一条第一項に該当せず、同法第八九条第一号、第四号に該当するから、被告人の保釈を許さなければならないものではなく、また、裁量により保釈を許すべき事由もない、というのである。

そこで、検討すると、まず、本件各被告事件については、いずれも、現在、検察側の立証は終了し、なお、被告側の反証が残されているものの、取り調べられるべき証拠の殆どがすでに取り調べられていることにかんがみると、本件各被告事件が、いずれも、被告人に対し、共謀共同正犯としての刑事責任を問うものであって、とくに物証が殆ど存在しないことを十分に考慮しても、もはや、本件各被告事件につき、被告人が罪証を隠滅する余地が殆どなくなったものというべきであり、したがって、本件が刑事訴訟法第八九条第四号に該当するものと認めることはできないけれども、前記昭和四四年(わ)第一三六九号被告事件(4)の罪は、無期または五年以上の懲役にあたる罪であって、被告人がこれを犯したことを疑うに足りる相当な理由があるから、本件は同条第一号に該当することが明らかであり、また、本件勾留は、昭和四四年(わ)第一三六九号被告事件の分については、約四年四月に及び、昭和四六年(わ)第三九九号被告事件の分についても、約三年に及び、被告人は、相当程度長期間勾留されているということができるけれども、右各被告事件は、いずれも、次に判示するように事案が重大であるうえ、組織的な犯行であって、被告人および共犯者である相被告人がいずれも犯罪の成否を争っており、他にも併合された被告事件があることからすると、その審理のためには、相当程度長期間を必要とする事案であること等の事実にかんがみると、未だ右各勾留が不当に長いものであって、本件が刑事訴訟法第九一条第一項に該当するものであるとは認められない。」したがって、本件においては、所論のように、被告人の保釈は許されなくてはならないものではなく、裁判所の裁量によりその保釈を許すことができるにとどまるものである。

そこで、次に、本件において、被告人の保釈を許すことが相当であるか否かにつき考察すると、本件各被告事件は、いずれも、現行社会体制および法秩序を破壊する目的のために、被告人の指揮、指導のもとに行われた組織的、計画的な犯行であって、その態様は悪質危険であり、中でも、前記厚木基地の施設をダイナマイトで爆破しようとした所為は、その法定刑が無期または五年以上の懲役と定められている重い罪にあたることにかんがみると、本件各被告事件は、きわめて重大な事案であることが明らかであるところ、被告人は、日本共産党革命左派の幹部であって、右革命左派なる組織は、武力革命のために非合法活動を行うこと標榜し、同じくこれを標榜する諸組織の中でも、現実にもっとも過激な実践をしてきた組織であって、被告人のこれまでの公判廷における態度、意見等をもあわせ考えると、被告人の保釈を許した場合、たとえ、その保証金を原決定より高額に定めたとしても、被告人は、右組織の幹部として武力革命のための非合法活動に専心するために、逃亡するおそれが顕著に認められるのであり、右事実にかんがみると、さきに判示したように、本件各被告事件については、すでに罪証隠滅のおそれがなく、被告人の勾留がかなり長期間になっているとはいえ、なお、被告人の保釈を許すことは相当でなく、これを許した原決定は不当であるというべきである。

よって、刑事訴訟法第四二六条第二項により原決定を取り消し、本件保釈の請求は、理由がないので、これを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 真野英一 裁判官 吉川由己夫 竹田央)

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